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2025.01.06

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可能性の素材「タングステン」を世界へ Vol.3

集める、変える、可能性を広げる。
三菱マテリアルグループ連携力の「可能性」

グループ一丸となって、タングステンの可能性に挑む三菱マテリアル。
ここでは「集める」、「資源に変える」、「可能性を広げる」という3つの領域に分け、タングステンの資源循環に携わる人の姿と、注目の取り組みに迫ります。

集める

スクラップディーラーと信頼関係を築きながら
グローバル規模でスクラップ回収を強化

Mitsubishi Materials U.S.A. Corporation
International Procurement Manager
柴﨑 信慶

2013年に三菱マテリアルに入社し、一貫して調達業務を担当。旧MMC スーパーアロイ株式会社(旧桶川製作所)出向を皮切りに物流資材部を経て、 2021年からMitsubishi Materials U. S . A . Corporation へ。現 在は主に米州における超硬スクラップの調達業務を担当。

健全な競争環境の構築が巡りめぐってスクラップ品質を高める

 特定の資源国に偏在しているため希少性が高く、世界情勢の変化により確保できなくなるリスクもあるタングステン。タングステンを安定調達するためには、リサイクルシステムが必要不可欠です。三菱マテリアルグループはタングステンを含む超硬スクラップをグローバルで回収し、新たなタングステン粉末として生まれ変わらせる資源循環システムを構築しています。
 私が働くMitsubishi Materials U.S.A. Corporation(以下、MMUS)は、北米で三菱マテリアルグループの切削工具、建設工具、耐摩工具、電子材料などの販売と、タングステンスクラップの調達を行っています。ただし調達といっても、私たちがお客様などから直接、回収するわけではありません。さまざまな金属が含まれる金属スクラップを回収・洗浄し、その中からタングステンスクラップを選別するのは、スクラップディーラーの役割です。スクラップディーラーからタングステンスクラ ップを買い付け、それを提携先のタングステン粉末メーカーに納入し、タングステン粉末の原料である酸化タングステンに生まれ変わらせること。それが当社グループの資源循環システムにおけるMMUSの役割です。
 その中で、私は主にスクラップの買い付け を担当しています。スクラップの価格は日々変動しているため、適正価格を判断するために定常的に取引のあるスクラップディーラーから毎月市況をヒアリングし、品質やシェア割り、今後の需要動向なども踏まえて取引先を選定します。その際、私は契約に至らなかった場合にも必ず、その理由を伝えるようにしています。そうすることで各スクラップディーラーが価格の見直しや、スクラップの品質の向上に努めるようになり、市場に健全な競争環境が構築されると考えているからです。また、そうしたコミュニケーションを通じて、スクラップディーラーとの間に信頼関係を築く狙いもあります。

「顔の見える関係」を築き誠実さと信頼をビジネスにつなげる

 スクラップディーラーとの交渉を担当する私のミッションは「より品質の高いタングステンスクラップを適正な価格で、安定的に調達すること」です。
 そこで私は、スクラップディーラーとの「顔の見える関係」の構築に挑戦しています。アメリカにも三菱マテリアルグループのようにグローバルでタングステンリサイクルに取り組む企業が存在しますが、ある程度の規模のスクラップを選別、分析、品質管理できるスクラップディーラーは限られています。その中で当社が選ばれるには、同業他社よりも強固な信頼関係をスクラップディーラーと築く必要があるの です。アメリカでも人間関係や誠実さがビジネスを左右することがあるため、私はスクラップディーラーのもとに定期的に訪問し、対面のコミュニケーションを大切にしています。また、当社と取引のあるスクラップディーラーはここ数年内に取引を開始したディーラーから、 10年以上の付き合いがあるディーラーまで幅広く存在しています。長期的に良好な関係を維持するためにも、常に誠実な対応を心がけています。そうした積み重ねで信頼を獲得し、ひいてはスクラップ回収量の拡大につなげていきたいです。

超硬工具製品におけるリサイクル原料使用比率80%を超える、さらなる高みを目指す

 三菱マテリアルグループは「中期経営戦略 2030」において、タングステンのリサイクルを通じ、2030年度までに超硬工具製品におけるリサイクル原料の使用比率を2023年度の 56% から80%以上に高めることを掲げています。その成否を握るのが、タングステンスクラップの回収量の拡大と、タングステンリサイクル能力の向上です。
 これらを実現するために、三菱マテリアルグ ループは、2024年5月に100年以上の歴史を有する世界有数のタングステン製品メーカー、H.C.Starck 社の全株式を取得することについて、基本合意。これにより、三菱マテリアルグループは日本、欧州、北米、中国の4大市場においてタングステン事業の拠点を有することになります。また、世界最大級のタングステンリサイクル能力を保有するH.C.Starck 社を取得することでリサイクル能力が増強されれば、私たちもスクラップ回収量を増やすことが可能になります。H.C.Starck 社がグループに加わることで、スクラップディーラーの当社に対する信頼度も高まり、取引の活発化も期待できます。
 そうした事業環境の変化をチャンスに変えて、私たちはスクラップ回収量のさらなる拡大を目指します。現在、三菱マテリアルグループではアメリカに加え、メキシコ、ブラジルなど米州エリア全体でのスクラップ回収を強化しています。今後は欧州エリアにおけるスクラップ回収量の拡大にも挑戦していきます。
 現在、北米エリアで調達したタングステンスクラップは日本新金属社で最終的なタングステン粉末として再資源化していますが、ゆくゆくは米州エリア内で完結するタングステンの循環システムも構築したい。私にはそんな夢があります。そうした挑戦の先で、三菱マテリアルグループのタングステンリサイクルの処理能力をさらに高め、超硬工具製品におけるリサイクル原料の使用比率80%を超える、さらなる高みの実現に貢献したいです。

資源に変える

あらゆるスクラップを
タングステン粉末に変える

日本新金属株式会社
秋田工場
生産技術グループ
菅原 悠人

2018年日本新金属社入社。三菱マテリアルのイノベーションセンター出向を経て、秋田工場にて勤務。現在は新規リサイクルプロセスの開発に向け、社内外試験や大学との共同研究なども担う。

長年の操業経験やノウハウを活かし最適なリサイクル処理を実現

 私は既存のリサイクルプロセスの生産性を高める技術改良・支援や、新規プロセスの開発を担っています。国内外で回収されたスクラップは、当社で選定、分析を行い、サイズや品位などを確認してから前処理、酸化焙焼を経て酸化粉末にします。この粉末を、湿式精錬工程によって不純物を除去し、乾式処理工程にてか焼、水素還元、炭化することでタングステン粉末製品(WO3/ W / WC)を製造しています。
 秋田工場の強みは、あらゆる種類のスクラ ップに対応できるリサイクル技術・湿式精錬技術・乾式処理技術のノウハウです。リサイクルの難しさは、さまざまなスクラップを「一定のアウトプット」に落とし込まなければならない点に集約されます。スクラップの種類によって処理のしづらさは変わります。当社は、長年の操業経験で培ったノウハウによって、リサイクル処理・湿式精錬・乾式処理を行い、どのようなスクラップであっても、一定のアウトプット、すなわち高品質のタングステン粉末を得ています。感性の高いオペレーター、判断の柔軟な工程管理者の両輪が織りなす成果です。
 また、H.C.Starck 社と連携し、よりグローバルに事業を展開できる未来に大きな意義を感じています。技術連携によって、お互いの弱みを補い合い、強みを磨き合い、さらには両社の技術を超えた新しいリサイクルプロセスを共同で開発できるかもしれません。こうした未来の可能性にわくわくしています。

新規技術の開発に挑み、安定供給に貢献したい

 タングステンを安定供給するためには、川上であるリサイクル工程の安定処理が何よりも重要です。目の前にある業務を愚直にこなすことこそが、中期経営戦略2030の実現に直結すると考えています。
 採算性の観点から、現状、受け入れていないスクラップもあります。スクラップの集荷拡大に伴い、今後、これらの引き合いも増えることが予想されます。これらのスクラップも低コストで処理できるよう、新たなリサイクルプロセスの開発も求められます。既存技術の適正化に加え、新規技術の開発にも積極的に挑戦し、変化を起こしながら、タングステンの安定供給に貢献します。

可能性を広げる

社会環境やお客様のニーズに合わせ
タングステンの可能性を拡大

日本新金属株式会社
秋田工場
生産技術グループ
加藤 優子

2004年に日本新金属社に入社し、分析業務を中心に担当。2018年から生産技術グループ。現在サブリーダーとして各テーマの進捗フォローを担い、特にタングステンの湿式精錬に関するテーマを担当。

どんなスクラップも処理できるリサイクル技術を目指す

 私たちの仕事は、イオン交換などの技術を組み合わせてタングステンスクラップから不純物を取り除き、きれいなタングステンを作り出すことです。スクラップにはタングステンの他に、コバルトや、合金を作る際の添加材などさまざまな元素が含まれます。これらを国内唯一の湿式精錬技術で取り除けることが、秋田工場の強みです。
 今後、タングステンリサイクルの「可能性」を広げるためには、予期せぬ不純物が入った スクラップや処理が難しいスクラップも、戦力化していく技術が求められます。これまでの実績でさまざまな事例を経験し、大半は対応できるようになりましたが、時代の変化に合わせ、この技術を一層進化させる必要があります。
 その鍵となるのが湿式精錬工程です。不純 物を取り除くためにどの薬剤をどの程度入れるべきか、最適な条件の見極めが求められるため、これまで培ったノウハウや知見を活かし、手法を確立させていきたいです。
 そして私は、タングステンの湿式精錬における環境対策にも取り組んでいます。アンモニア(NH3)を扱うので、秋田工場は排水中の窒素(N)量が多いという課題があります。窒素が増えすぎると、水質への影響が懸念されます。環境に配慮し、持続可能な形で事業を拡大するため、アンモニア窒素を回収して再利用していくことを目指しています。

グループ全体で技術を磨き合い資源循環を促進していく

 私が現在取り組んでいる排水中のアンモニアの課題だけでなく、温室効果ガス(GHG)排出の少ないリサイクル技術を確立させるなど、社会からのニーズと方向性を合わせて、これからも業務改善に取り組んでいきたいと思っています。
 私たちの役割は、タングステンリサイクルを促進、強化し、タングステンの安定供給を支えること。そのために今後、処理が難しいスクラップも処理できるよう、既存の技術をレベルアップさせていきます。これまで分析業務などでも経験を積んだことや、日々の学びを、今後の業務に活かしたいと思います。
 そしてH.C.Starck 社を加えたグループ全体でリサイクル技術を磨き合うことで、タングステン資源の循環を促進し、事業拡大に結びつけていきたいです。