タグから探す

2023.01.05

0

SHARE

技術の力で未来をつくる Vol.3

世界最高水準の強度と耐熱性を両立
無酸素銅「MOFC R -HR」ができるまで

2021年、三菱マテリアルは強度と耐熱性を世界最高水準に高めた新しい無酸素銅、「MOFC®-HR」(Mitsubishi Oxygen Free Copper - Heat Resistance)を開発しました。
自動車のEV 化や次世代エネルギーの普及に寄与する特性を備え、持続可能な社会に貢献する素材です。新しいマテリアル開発にかける社員の奮闘を紹介します。

電化・電動化の時代
銅素材も進化する

 三菱マテリアルは、銅製錬から伸銅品まで一貫した銅加工事業を展開しています。長年、お客様のニーズを満たすさまざまな銅製品を開発してきましたが、中でも得意としているのが、無酸素銅とその合金の開発、製造技術です。
 近年、自動車のEV化や次世代エネルギーの普及に伴い、そこで用いられる電気機器部材には大電流への対応と高い放熱性が求められるようになりました。そのため、銅材料の中で最も高い導電率と熱伝導率を有する無酸素銅の用途が急速に広がっています。しかし、電気機器の信頼性や機能向上を追求すると、既存の無酸素銅では強度や耐熱性が不足しているという課題がありました。
 「企業に属する研究開発者には、技術を世に出し、人に役立つものをつくるというミッションがあります。三菱マテリアルが得意とする無酸素銅をさらに進化させ、お客様のニーズにしっかり応えなければなりません」と、研究開発を統括する牧は語ります。

失敗を恐れずに
可能性をとことん探る

 今から5年前、金属材料の研究開発を行うイノベーションセンター北本支所では、専任研究員の伊藤のチームが無酸素銅の可能性を模索していました。「無酸素銅の特長である導電率と熱伝導率は強度や耐熱性とトレードオフだと考えられていました。しかしお客様が求めているのは、導電率も強度も同時に満たすもの。それが実現しなければ電動化の足枷になってしまう。その期待に応えるためにも、失敗を恐れずにあらゆる組成を試行錯誤していたところ、強度をアップしても予想よりも導電率が下がらない面白い現象をみつけました。研究者冥利に尽きる瞬間でしたね」
 失敗を恐れないこと―。三菱マテリアルのイノベーションセンターでは、基礎研究の段階では、結果を気にせず自由に可能性を探る風土があります。今回の開発はそうした風土が功を奏しました。
 伊藤が基礎研究で発見したシーズを、ブラッシュアップして製品化へとつなげる役割を担ったのが福岡です。「特性パラメータを調整しながら性能を最適化していくと、少しずつ材料が持つポテンシャルに確信を持ちました。弱点を克服した無酸素銅がどんな機器に採用されるのか、想像するだけでワクワクしましたね。『MOFC®-HR』がものづくりにインパクトを与えることは間違いないでしょう」
 ラボでの検証を経て、いよいよ若松製作所の実機で試作を開始。最初は性能のばらつきがあり、実機での試作が思わしくないとラボで検証というサイクルを何度も繰り返しました。若松製作所の森川は、当時をこう振り返ります。「ラボで見出された特徴を実機で再現し、お客様に求められる仕様を満たす工程を確立するのは簡単ではありませんでした。世界最高水準の特性を持つ新製品を世に出すことの大変さを痛感しました。でも今となっては、その過程に関われたことを幸運だと思います『。MOFC®-HR』を無酸素銅の新たなスタンダードにしたいですね」

企業に属する研究開発者のミッションは、技術を世に出し、人に役立つものをつくることだ。

社内外の対話が
イノベーションを加速させる

 プロジェクトマネジメントを担当する末廣は、今回の開発の成功には、社内外のチームワークが不可欠だったと分析します。「当社は人間関係がフラットで、目的を達成するためには上下関係を気にせず自由に意見が言える雰囲気があります。チームの力でアイデアが広がり、スピーディに物事が進みました。社内だけでなく、お客様にも開発段階からたくさんのご意見をいただきました。世の中のニーズを満たすために一つのチームになれたことで、世界最高水準の性能を持つ製品開発が実現できたのだと思います」
 お客様のニーズを社内に伝え続けた営業の岩城も同じ意見です。「イノベーションセンター、若松製作所、営業が一体となって、多くのお客様の声を吸い上げられたことが、ニーズにマッチしたマテリアルの開発につながりました。すでにあるお客様で『MOFC®- HR』の評価試験をしていただき、最大の長所である導電率と強度のバランスについて高い評価をいただいています。強度があれば材料の板厚をダウンサイジングしてコストメリットも得られます。本採用していただけるように、引き続きお客様と社内をつないでいきます」

世の中の役に立ち、
未来を変えるマテリアル

 2021年9月、『MOFC®-HR』のプレスリリースを公開すると、複数のお客様から意見をいただきました。社会の電化・電動化に伴い、自動車用高圧端子、バスバーモジュール、充電コネクタ、リレーソケット、電池タブリード、パワーモジュール、リードフレーム、ヒートシンクなど、多くのアプリケーションに、高強度で高耐熱の無酸素銅の特性が期待されています。
 プロジェクトメンバーに共通した想いは、「世の中に役立つマテリアル」をつくること。実際に使用され、社会に価値を生み出し、地球の未来を守るマテリアルでなければ意味がないと口を揃えます。世の中のニーズを満たすため、三菱マテリアルの研究開発は、これからも飽くなき挑戦を続けます。

プロジェクトメンバーに共通した想いは、「世の中に役立つマテリアル」をつくること。