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2024.01.09

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特集: 世界のものづくりの力になる vol.2

Project Story 1 中経2030実現へ 技術と経験を活かす

「加工しにくい」を、技術の力で解決する

三菱マテリアルは中経2030において長年の技術と経験を活かし、難削材加工・難加工領域の製品開発に注力することを掲げています。その挑戦の一つが、TRISTARドリルシリーズ、ディーブイエーエス「DVAS」の開発です。削りにくい材質に、細く深い穴を開けるという、  高度な技術が求められる開発を成功させました。

写真左    加工事業カンパニー
岐阜製作所 ドリル・超高圧工具開発部工具開発課 課長補佐

佐藤 晃

写真右    加工事業カンパニー
営業本部 技術営業部 部長補佐小物高精度加工専任技術担当

江波 幸治

細穴加工の常識を覆すTRISTARドリル「DVAS」開発
精緻な技術と挑戦心が、切削加工の課題を解決する 次世代工具を創る

工具を使って、金属などの材料を削ったり、穴を開けたりすることを切削加工といいます。その中でも「穴」を開ける加工は非常に多く、特に自動車や医療機器などに使われる精密 部品において、ネジ穴やボルト穴といった穴開け加工は、重要な鍵を握ります。またこうした精密部品には、硬かったり加工が難しかったりする特殊な金属材料が多く使われます。そのため繊細な加工が必要となり、工具に求められる能力も高まっています。この繊細な穴開け加工を可能にする次世代工具「DVAS」の開発に挑戦したのが、佐藤さんと江波さん。DVASは自動車や医療機器の部品加工のほか、身近な給湯装置やウォシュレットなどの水栓器具の穴を開ける加工にも使われる、細長いドリルです。一般的に、ドリルで金属を削る際、摩擦熱 による工具の損耗や損傷を防いだり、冷却したりするために「切削油」を使って削りますが、 DVASにはドリルの中に切削油が通る、おむすびのような形の小さい穴が螺旋状に搭載されています。そのため設計・製造において、この穴を破かずに工具剛性を向上させる、とい う従来にはなかった大きな困難がありました。三菱マテリアルはこの細い螺旋状の穴を破かない独自のデザインを実現。工具の「頑丈さの向上」と「切りくず排出性の確保」を両立させることに成功し、お客様の製造効率を高める工具を開発することができました。
「従来の切削工具では、折れて破損するこ とによる機械稼働率低下が問題でした」。開発に携わった佐藤さんはこう語ります。「破損を防ぐことが生産性の向上、品質の安定化につながります。私たちは従来の加工方法に加え、LFV(低周波振動切削)技術のような新しい加工方法にも対応した工具開発に挑み、お客様のものづくりに貢献しようとしました」。DVASは、このLFV 技術を搭載したマシンに対応しています。LFV 技術とは、金属を削る際に出てしまう、切りくずのトラブルを解消する最新技術。切りくずは長年、金属加工の障壁であり、工具に絡まったり、被削材を傷つけるといった課題がありましたが、LFV技術に対応したDVASを使用すれば、これらの課題は解決できます。
困難な開発に成功した裏側には、これまで業界初のユニークな技術を取り入れたドリルの製造や先進的な技術開発を行ってきた、現場の知見や試行錯誤がありました。
技術営業を担う江波さんは「私たちの使命 は、お客様が現場で抱える課題を明確にし、解決できるソリューションを提供することです。そのためにTRISTARドリルをはじめとする、私たちの『商品力』を多くのお客様に知っても らうために、工作機械メーカーや周辺機器メーカーとのコラボセミナーを始動させました。他社が追従できない商品力とソリューション提供で、中経2030の実現を推進します」と意気込みます。
佐藤さんは「私たちは、お客様が求める工具を迅速に届けられるメーカーを目指しています。小径穴、大径穴、深穴加工といったあらゆる要求に応える工具を拡充し、遅滞なく市場に供給する。さらに当社ならではの技術サポートを通して、工具の市場を拡大することで中経2030達成に貢献していきたいです」と意欲を語りました。

(左)LFV(低周波振動切削)技術に対応した工作機械を確認する江波さん
(右)工作機械に取り付けられた DVAS。細くて深い穴を加工することができる

「難削材」「難加工」とは?

難削材とは、加工する対象物の材質そのものが削りにくく、加工が難しいもの。主な例としてステンレス鋼、チタン合金、耐熱合金などがあります。こうした難削材は、強度や耐熱性が求められる自動車産業や航空機産業で活躍しています。 難加工とは、加工する対象物の形状や、新たな加工プロセスによって難易度が増した領域のこと。例えば、小径穴や深穴、緻密で複雑、微細な形状、高精度な品質を求められる加工などを指します。

LFV(低周波振動切削)技術とは?

LFV(低周波振動切削)技術は、シチズンマシナリー㈱独自の制御技術です。工具を切削方向に振動させ、その振動を、主軸回転と同期しながら切削します。その特長は、削る材料と切削工具を細かい振幅で強制的に分断できることで、これまでつながっていた切りくずが細かく分断された状態で排出されること。切りくずトラブルの防止や刃先温度上昇の抑制につながります。
「LFV」はシチズン時計㈱の登録商標です。