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2025.10.24

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岐阜製作所 ドリル・超高圧工具開発部 超高圧工具開発課
廣澤 優樹

ものづくり現場の声に
技術で応える

自動車や航空機、機械部品など、あらゆる産業の製品を加工する上で欠かせないのが、金属を削るための道具である「超硬工具」です。私はその一種であるCBN工具の開発と拡販支援を担当しています。

CBN工具とは、ダイヤモンドのように硬い素材「立方晶窒化ホウ素cBN (cubic Boron Nitride)」を主成分とし、セラミックスや金属成分を加えて超高温・高圧下で焼き固めてつくられる工具です。cBNはダイヤモンドに近い結晶構造※を持つため、非常に硬く、熱にも強いという特性があります。そのため、硬くて加工が難しい金属の加工や高精度な仕上げ加工に最適で、ものづくりの現場で欠かせない工具です。

工具の性能は、製品の品質や生産性に直結します。だからこそ私は開発にとどまらず、営業担当者とともにお客様の現場へ足を運び、お困りごとを伺いながら、開発者としての視点を活かして技術的な課題にも踏み込んでいます。

ものづくり現場の声に技術で応えること──それが、私の仕事の本質だからです。

※結晶構造 固体中の原子や分子が三次元空間に規則正しく配置されている構造のこと

CBN工具

刃先を対象の金属に当てて削る

前例のない挑戦が
突破口になる

そんな本質に気づいたのは、今から2年半ほど前のことでした。

工具寿命を伸ばし、生産ラインが停止する時間を縮めたい。そんな悩みを抱えたお客様がいらっしゃいました。従来の提案では改善が見られず、他社にも相談されたものの、状況は変わらなかったそうです。そんな中、営業担当者から「開発者目線で突破口を見つけられないだろうか」と声がかかりました。

他社も高品質な製品を揃えている中、セオリー通りの提案では、私たちが選ばれる理由にはならない。そう考えた私は、現状の工具損傷と加工条件、加工部品の情報と、多くの切削試験を経て培ったCBN工具の摩耗や損傷メカニズム、コーティングや形状の特性を照らし合わせ、従来とは異なる材料・コーティング・刃先の形状を組み合わせた工具を提案しました。

その結果、他社製品を大きく凌ぐ長寿命を発揮し採用が決定。お客様から、「工具の交換頻度が減ったことで作業効率が向上し、工具費の削減にもつながった」と、うれしいお声をいただきました。会社の売上に貢献できたことはもちろんですが、お客様のものづくりに貢献でき、大きな達成感が得られました。

この経験は、私にとって「挑戦すること」の価値を強く実感する出来事でした。既存の枠を超えた柔軟な発想と挑戦が、ものづくり現場の課題を打開する力になる──それは、私たちが大切にしている「挑戦」や「変化」といった価値観にも通じる気づきでした。

工具の進化は
自由な対話と挑戦の先にあると信じて

CBN工具の「長寿命化」と「対応領域の拡大」。この2つを実現することでCBN工具の品質をさらに高めていくことこそ、私の使命だと考えています。CBN工具は硬い金属の加工に使われる一方で、損傷が激しく、多くのお客様が交換頻度を減らしたいという切実な思いを抱えているからです。

また、実際にお客様の現場へ伺う中で、近年は加工能率の向上が強く求められていることが分かりました。そのため、長寿命なCBN工具であることはもちろんのこと、幅広い切削領域に対応できれば、生産効率が大幅に向上し、無駄なエネルギー消費も抑えられるため、資源の有効活用につながります。

つまり、私たちの技術は、ものづくり現場の効率化や省人化、そして持続可能な社会の実現にも貢献しているのです。だからこそ私はこれからも、既存の価値観や技術にとらわれることなく、他分野の技術にもアンテナを広げながら、新しい価値を生み出す「挑戦」を続けていきます。

その挑戦を支えているのが、職場の仲間との対話です。職場には、異なる専門性を持つ仲間がおり、お客様の現場で得た気づきや日々の切削試験で得られた知見を持ち寄ることで、新たな視点や発想が生まれています。

私は、年次や立場に関係なく、自由に意見を交わせるこの環境を、これからも大切にしていきたいと考えています。世界のものづくり現場に貢献できる工具は、自由な対話と挑戦の積み重ねの先に生まれる──私はそう信じています。
「正解がないから、面白い」。そう語る廣澤さんは、切削試験で得た知見と自身の経験を掛け合わせ、最適解を模索する。常識を疑い、挑戦を恐れず前進し続ける姿勢が、世界のものづくり現場を変えていく。